今更ながら、健さんについて語る。

観賞本数は、断トツで健さん

先日、健さんの主演映画を久しぶりに観ました。「海峡」という、青函トンネル工事のお話です。作品自体は至極退屈で、健さんをはじめ豪華俳優陣たちの魅力があまり活かされていない残念な映画でしたが、森繁久彌や吉永小百合といった主役クラスの俳優陣との共演でも存在負けせず、そこはやっぱり健さん主演映画だなという安定感を感じました。
何度か書いていますが、つい最近まで高倉健という俳優が嫌いでした。正確には、意識的に映画を観るようになった2010年までは確実に嫌いでした。健さんのみならず、勝新太郎や吉永小百合も嫌いでした。理由は簡単で、自分がまだ若かったからだと思います。映画というのはこういう作品を作りたいからそのイメージに合った俳優である○○を主演にしよう、という流れで作っていくものだと思っていたのに、「俺は高倉健だ、俺をうまく撮ってくれる映画があれば出てやるぞ。でも俺のイメージは壊すなよ」的な、健さんの主演映画は全て健さんありきの「どれ観たって同じ」作品なような気がしていました。「また健さんか」といううんざり感もありましたね。健さんだけでなく、勝新太郎や吉永小百合にも同じようなイメージを持っていました。もちろんこれは若い頃そう思っていたという話です。
でまぁ、2010年頃にふと、選り好みせずに映画を片っ端から観てみようかなと思い立ち、これまで全く興味のなかった健さんの映画も「我慢して」観始めるようになりました。そのうち、せっかく観るんだから記録としてカタチに残したい、という思いから映画のブログを書くようになったのが2011年の9月から。記録に残っている限りでは、健さん主演作を最初に観たのは「居酒屋兆治」のようです。以来これまで、42本の主演作品を観てきました。42本というのは、自分が観てきた主演俳優の中で断トツの数字です。ちなみに2位は勝新太郎の24本、3位がブルース・ウィリスの13本。4位はクリント・イーストウッドとニコラス・ケイジと役所広司が12本づつで並んでいます。さらに42本というのは主演作品だけですから、「ブラック・レイン」や「人生劇場」など主演以外の作品をあわせるともっと多いのは間違いありません。さらにちなみに監督でいうと、黒澤明、降旗康男、クリント・イーストウッドが12本で同率1位になっています。降旗監督の場合は12本のうち11本が健さん主演(残り1本は妻夫木聡主演)ですから、健さんを観たら降旗作品だったという感じです。

任侠映画の健さんについて

健さんの出演作をあえて「任侠物」「制服物」「その他」の3つに分類させていただきます。あくまでも推測ですが、昭和30年から40年にかけて、任侠映画は絶大な人気を誇っていたのでしょう。「昭和残侠伝シリーズ」を観ていると、まるで「よっ、待ってました、健さん!」という観客の合いの手が聞こえてきそうなシーンがあります。製作者側も、それを計算に入れてたっぷりと間合いを取ってるのでしょう。近年は「応援上映」なる観客一体型の上映スタイルが増えているそうで、元祖とは言わないまでも、任侠映画は古き良きおじさんたちの応援上映だったような気がします。
全ての作品を観たわけではありませんが、「昭和残侠伝シリーズ」は王道パターンが決まっています。善と悪、2つの組が争っていて、悪は善にさんざん意地悪をする。善はそれにひたすら耐える。そのうち善の組に健さんが帰ってきて活気を取り戻すも、エスカレートしてやりたい放題の悪の組に対してとうとう堪忍袋の緒が切れて、池部良と健さんが殴り込む。池部良は死に、健さんは生き残る。ワンパターンだなと思いつつも、マキノ雅弘監督のように斬新な演出を取り入れたりするとそれはそれで面白いんだけど、やっぱり王道パターンのほうがいいな、なんて思ったりもします。「昭和残侠伝シリーズ」に比べて「日本侠客伝シリーズ」は日本映画チャンネルであまり放送しておらず、第1作目しか観賞できていないので、そのうちまとめて放映してくれるのを期待しています。
「昭和残侠伝シリーズ」と並ぶひとつの代表作が、「網走番外地シリーズ」でしょう。第1作目こそ脱獄をテーマにしたシリアスな内容でしたが、2作目からはコメディ映画かと思うぐらい支離滅裂な内容になっていき、北海道を舞台とした無国籍映画化していきます。「網走番外地 南国の対決」などは返還前の沖縄が舞台で、「網走と全く関係ないじゃん!」とツッコミを入れたくなります。なので、「網走番外地シリーズ」は全体的にそれほど好きじゃないかな。
健さん主演の任侠映画の中でしいて一番好きな作品をあげるとすれば、「侠客列伝」でしょう。正直、内容はほとんど覚えていませんが、過去のブログを読み返すとこれが一番面白かったようです。

制服姿の健さんについて

着流し姿と並んで、健さんは制服姿も似合います。軍服だったり、刑務官だったり、鉄道員の制服だったり。若い頃はセリフの多かった健さんも、年齢を重ねるにつれて寡黙で不器用なキャラクターが定着していったのは、制服姿の印象によるところが大きいのではないでしょうか。また、雪の似合う俳優でもありました。「八甲田山」「動乱」「二・二六事件 脱出」「鉄道員(ぽっぽや)」など、白い雪をバックに制服がいっそう際立っていたような気がします。
自分だけかも知れませんけど、健さんの制服姿は、三島由紀夫の軍服姿とある意味印象が被ってしまいます。実は○○だったという噂も聞いたことがありますし、死ぬ間際まで高倉健という俳優を演じきった潔癖さというか覚悟というか、つまりは制服姿の健さんに「男の美学」や「男の生き様」を感じるからなのでしょう。
制服姿で一番好きな映画をしいてあげるとすれば、やっぱり「八甲田山」になりますかねぇ。
いざ書き始めてみると、わざわざ「任侠物」「制服物」「その他」とジャンルを立てた割には「制服物」についてはそれほど書くことがありませんでした。

その他の健さんについて

「任侠物」と「制服物」以外を全て「その他」とひとくくりにしてしまうのは我ながら大ざっぱすぎるとは思っています。居酒屋の主人を演じた「居酒屋兆治」「あなたへ」「単騎、千里を走る。」は、静かで味わい深い系の作品でしたし、「野生の証明」「君よ憤怒の河を渉れ」「ゴルゴ13」などのハードボイルド物も、ツッコミどころはあるにしても面白かった。「四十七人の刺客」はめずらしく侍物ですし、「恐喝」「新幹線大爆破」「狼と豚と人間」は貧乏から抜けだそうともがく低所得者層が主人公でした。でもまぁ、便宜上「その他」ひとくくりで勘弁してもらいましょう。
ちなみに「君よ憤怒の河を渉れ」の「憤怒」はもちろん「ふんぬ」と読みますが、映画の正式タイトルは「ふんど」になっています。前々から不思議に思っていたんですけど調べてみたらこれには理由があって、実力者だった映画プロデューサーが「憤怒」を読めずに「ふんど」と読んでしまい、ミスを認めるのはプライドが許さなかったのか、本当は「ふんぬ」だけどこの映画は「ふんど」で行く!と押し通してしまったそうです。古き良き時代の映画界、って感じのお話ですね。
閑話休題。
「その他」の中で一番好きな作品をあげるとすれば、悔しいけど「幸福の黄色いハンカチ」になります。「悔しい」というのは、この作品はクライマックスシーンを予告編などで飽きるほど見させられてきた、ネタバレ作品だからです。あらすじは知らなくても「最後はこうなるんでしょ?」と誰もが知っている映画なんて、一体誰が観たいと思うでしょうか。しかし数年前に健さんが亡くなった際、追悼としてこの作品が放映された時も観る気は全くなかったものの、一応録画だけはしておきました。で、しばらく経ってから、何となくその気になったので「2時間を無駄に過ごす覚悟」で観賞してみました。そしたらこれが、予想外にいいんですよねぇ。予告では鼻につくだけの演技に感じていた武田鉄矢と桃井かおりの演技も、映画の中ではちゃんと健さんとバランスが取れている。最後はハッピーエンドで終わるとわかっていても、悔しいけどハンカチのシーンではホロッとしてしまいました。これまで42本以上健さんの映画を観てきましたが、感動したのはこの映画だけだったと思います。悔しい、本当に悔しいです。
実はまだ、健さんの代表作のひとつともいうべき「南極物語」を観ていません。「幸福の黄色いハンカチ」同様、タロジロとの感動的な再会シーンばかりが一人歩きしていて、今更観る気がしないからです。でも、「幸福の黄色いハンカチ」で感動してしまうのですから、機会があったら「南極物語」も観てみようかなと思います。